シンクから患者への拡散:グリーン蛍光タンパク質(GFP)を発現する大腸菌を用いたin situ試験-手洗いシンクトラップリザーバからの細菌分散のモデル化
掲載元:ASM Journals Applied and Environmental Microbiology Vol. 83, No. 8
https://journals.asm.org/
掲載日:2017年3月31日
今回は2017年3月31日、J ASM Journals Applied and Environmental Microbiologyに掲載されました、「シンクから患者への拡散:グリーン蛍光タンパク質(GFP)を発現する大腸菌を用いたin situ試験-手洗いシンクトラップリザーバからの細菌分散のモデル化」をご紹介いたします。
※こちらの文献はフリーアクセスでご覧いただくことができます。
最近、多くの文献で水回りに関連する内容が取り上げられています。しかし、シンクから患者への微生物の伝播機構は完全には解明されていません。今回の研究では、微生物がシンク下層トラップ(以下、Pトラップ)の封水から直接的に伝播するのではなく、Pトラップからストレーナーへ、続いてボウルおよび周囲の領域へ徐々に伝播することを明らかにしています。
環境を清潔に保つために推奨される方法として多くが、化学的および物理的な方法を用いて洗浄を行うことが挙げられます。しかし、このような通常のアプローチでは、トラップなどに生息する薬剤耐性のガンマプロテオバクテリア綱* を完全に排除することはできません。また、トラップ内の湿潤な環境は、微生物の増殖を促進します。
* ガンマプロバクテリア網:真正細菌の分類群の一つで、腸内細菌科、ビブリオ科、シュードモナス科などを含む。
今回の調査では、患者および医療従事者が曝露される可能性のある領域において、ストレーナーおよびPトラップの封水中に生息するガンマプロテオバクテリアの分散動態をより深く理解することを目的としています。
具体的には以下3つの点に注目しています。
(i)微生物がPトラップの封水からストレーナーへ逆行して増殖する可能性があること
(ii)共有の排水システムを持つパイプの内面に沿って、微生物が1つのシンクから別のシンクに拡散する可能性があること
(iii)手洗い時に、細菌が付着した排水管のどの部分がシンクボウルに分散するか
調査開始後7日目には、GFP発現大腸菌のコロニー形成が確認されました。また14日後には、ストレーナーからもGFP発現大腸菌が検出され、結果として、微生物は1日に約1インチの速さで下層のパイプからストレーナーまで急速に増殖することが判明しました。
今回ご紹介した研究は、微生物が排水管から発生し、患者に感染する多剤耐性病原体の伝播機序を、初めて適切にモデル化したものです。Pトラップからの液滴分散は直接的には起こらず、むしろ多段階の過程で発生し、Pトラップの微生物リザーバーからバイオフィルムが形成された後にシンクのストレーナーおよびボウルから分散が生じることが明らかになっています。また、共通のパイプを介したシンクからシンクへの伝播も実証しています。この研究は、患者さんの安全性、感染制御、介入、および脆弱な入院患者さんへこのような伝播を防ぐための将来の病院配管システムの設計に影響を及ぼす可能性があります。