日本のオミクロン株およびデルタ株流行期の医療従事者における SARS-CoV-2 感染のリスク因子の比較
Comparison of risk factors for SARS-CoV-2 infection among healthcare workers during Omicron and Delta dominance periods in Japan
Y.Li*, S. Yamamoto, Y. Oshiro, N. Inamura, T. Nemoto, K. Horii, J.S. Takeuchi, T. Mizoue, M. Konishi, M. Ozeki, H. Sugiyama, W. Sugiura, N. Ohmagari
*National Center for Global Health and Medicine, Japan / 国立国際医療研究センター
Journal of Hospital Infection (2023) 134:97-107
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Journal of Hospital Infection (JHI) 2023年4月号に掲載された本論文は、国立高度専門医療研究センター、いわゆるナショナルセンター* のひとつ、国立国際医療研究センターからの報告で、デルタ株流行期とオミクロン株流行期の医療従事者における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染のリスク因子を比較した報告で、同じ対象集団で直接比較した初めての研究となります。
*ナショナルセンター:現在、次の6拠点が該当しています
国立がん研究センター(NCC)、国立循環器病研究センター(NCVC)、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、国立国際医療研究センター(NCGM)、国立成育医療研究センター(NCCHD)、国立長寿医療研究センター(NCGG)
当該センターのスタッフに対して反復して行われた血清調査のデータを用いて、デルタ株流行期コホート(コホート1 / N=858)およびオミクロン株流行期コホート(コホート2 / N=652)、2つのコホートを確立しました。潜在的なリスク因子については、質問票を用いて評価しました。過去の罹患を含めSARS-CoV-2感染は、PCR検査または抗ヌクレオカプシド抗体検査によりそれぞれ同定しました。2コホートにおける感染のリスク比(RR)を算出し検討しています。
感染リスク因子は多岐にわたり解析されています、特に重要な点をまとめます;
– コホート1における感染率2.2% (19/858)に対してコホート2では7.4% (48/652)、コホート2で3倍以上高かった
– COVID-19関連病棟で勤務していることならびにSARS-CoV-2への職業曝露が高いことは、いずれの流行期においても感染リスク上昇には関連しなかった
– コホート2では、いわゆる3密(密閉、密集および密接)でマスクの装着なしに30分以上過ごしたことが多いスタッフでは感染リスクが高かった
考察では、次のようにコメントされています;
- 混雑した場所で長時間過ごすことは、集団感染のハイリスク状況として指摘されているが、本研究では、オミクロン株流行期ではそのような行動と感染率上昇は関連していたが、デルタ株流行期では関連していなかった。オミクロン株優勢時に感染予防実践の遵守を高めることで、感染リスクを低下させたことが示唆された。以上の結果は、ワクチン接種後であっても、免疫回避性の高い変異型のパンデミック時には、ハイリスクな行動は避け、標準的な感染予防習慣を遵守することの重要性を強調している。
- 本研究では血清学的な調査が行われており、無症候ないしは軽度の症状で未診断となっているものも含めて感染を補足できている点が強みである。
本研究の結果より、適切な感染対策が行われていれば、職業上のリスクが高いスタッフにおいても安全は保たれることが実証され、高い免疫回避特性を持つ変異体の出現後においても、最前線の医療従事者の保護における複数の感染対策の実施の有効性が裏付けられた、と結語しています。
COVID-19の流行は当面繰り返す可能性があります、標準予防策をはじめとする感染対策の遵守を改めて確認・実施して行きましょう。