2024年(令和6年)度診療報酬改定 感染対策分野情報 その1
概要
•2年に一度改定される診療報酬改定、2024年(令和6年)はまた診療報酬(医療)・介護・障害福祉サービス等の報酬改定が同時に行われる6年に一度のトリプル改定となるため、その規模や注目度は大きいです。
•個別項目の一つに「新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組」があります。2022年(令和4年)度に大きく改定された感染対策関連の要件・加算等の一部が更に改定されています。
•本サイトでは、これまでの診療報酬改定の経緯、2024年(令和6年)度診療報酬改定の感染対策分野に関連した基本方針および全体像についてご覧いただけます。
1.「診療報酬」とは? (これまでの変遷)
診療報酬とは、医療機関がサービスに対する対価として受け取る報酬のことです。
提供されるサービスは全て点数化されており、「1点=10円」で計算されます。(例えば、初診料288点の場合2880円支払われることになります)
診療報酬のうち、原則3割は患者が自己負担分として支払います。残りは加入している保険者によって審査支払機関を通して支払われます。
また、社会状況に適切に対応していくため、2年に一度改定されます。
■ 診療報酬改定の歴史
1996年に診療報酬上で初めて感染対策費として「院内感染対策防止加算」が新設されました。 院内感染対策防止加算という名称ではありますが、要件はMRSAに限っての内容であり、当時のMRSAの影響力の大きさが示唆されています。 次の改定の4年間までに人材の育成や、サーベイランス等が開始されました。
2000年、院内感染対策は全ての施設で行われるべきものであり、実施していなければペナルティという考え方に基づき、未実施5点減算へと転換されました。
2006年には、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律が成立し、医療の安全の確保と質の向上のための措置が求められました。 院内感染対策については、病院や診療所等の全ての医療機関に対して体制確保が義務となり、法令遵守事項として位置づけられています。
診療報酬改定における院内感染対策としては、未実施減算は廃止され、入院基本料の一つとして1996年の基準よりも、より詳細に内容が示されました。
2010年の診療報酬改定により、院内感染防止対策を評価する新たな点数として、「感染防止対策加算」が新設されました。あくまで医療安全対策加算の連動点数として位置づけられていますが、 点数は大枠の医療安全対策加算より高く、感染防止対策の重要性に対する評価が高まった、あるいはコストのかかる感染防止対策に対する正当な評価が行われるようになったと考えられます。 また、初めて感染対策防止チームの活動内容に職種が規定され、抗菌薬の適正使用に向けて、体制が整えられました。
2015年世界保健総会では薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクションプランが採択され、適切な薬剤使用が求められるようになりました。 2018年の診療報酬改定では、薬剤耐性(AMR)対策として抗菌薬適正使用加算が追加され、新たな耐性菌の発現を抑制し、 薬剤耐性の微生物による合併症等を減少させるための対応が医療機関に求められました。
2020年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックにより、感染対策がさらに見直されました。 前回の改定(2022年)では加算名称の変更、外来感染対策向上加算、連携強化加算・サーベイランス強化加算の新設など多くの変更が加えられました。
そして2024年の改定では、新型コロナウイルスのパンデミックでの経験を踏まえ、また第8次医療計画との関連から、新興感染症等の拡大時に迅速かつ柔軟な対応を行うための「ポストコロナにおける感染症対策の推進」が打ち出されています。
2. 2024年(令和6年)度診療報酬改定の基本方針の概要
2024年(令和6年)度診療報酬改定にあたっての基本認識として次の4項目が挙げられています。
- ●物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
- ●全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
- ●医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
- ●社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
これら4つの基本認識をベースとした、改定の基本的視点と具体的方向性が大きく4つ挙げられています。その中の1つ、「(2) ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」の具体的方向性の一例として「新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組」が挙げられています。
また、主要な改定項目として6項目が挙げれており、「3.ポストコロナにおける感染症対策の推進」として4つの改定内容が示されています。
- ●改正感染症法及び第8次医療計画に基づく、 協定指定医療機関であることを感染対策向上加算および外来感染対策向上加算の要件として規定。外来感染対策向上加算の施設基準に罹患後症状に係る対応を明記。
- ●発熱外来に代わる発熱患者等対応加算を新設。抗菌薬の適正使用も抗菌薬適正使用体制加算として評価。
- ●入院患者に対して、特定感染症入院医療管理加算を新設し、感染対策を引き続き評価。
- ●また、個室で空気感染及び飛沫感染を生じる感染症等においては、特定感染症患者療養環境加算として個室管理等を評価。
(新) 特定感染症入院医療管理加算
治療室の場合………200点
それ以外の場合………100点
(新) 特定感染症患者療養環境特別加算
個室加算………300点
陰圧室加算………200点
(新) 発熱患者等対応加算………20点
(新) 抗菌薬適正使用体制加算………5点
(新) 急性期リハビリテーション加算………50点(14日目まで)
(改) 早期リハビリテーション加算………30点→ 25点(30日目まで)
2024年(令和6年)度診療報酬改定にかかる主なスケジュールは下表の通り発表されています。これまで、4月1日施行が通常でしたが、診療報酬改定DXの推進に向けて、医療機関等やシステムベンダーへの集中的な業務負荷を平準化するために、今回の診療報酬改定より施行時期を6月1日とすることになりました。
3.ポストコロナにおける感染症対策に係る評価の見直し:全体像
2024年(令和6年)度からの新たな医療計画、すなわち第8次医療計画 ※においては、都道府県と医療機関との間での「新興感染症の流行初期、まん延時等における協力体制」の締結を結び、実際に新興感染症が発生・まん延した場合には締結内容を遂行することとなっています。
※第8次医療計画で掲げられた6事業の中の1つが【新興感染症】で、「新型コロナウイルス感染症対応の教訓を踏まえ、当該対応での最大規模の体制を目指し、平時に医療機関の機能及び役割に応じた協定締結等を通じて、地域における役割分担を踏まえた新興感染症及び通常医療の提供体制の確保を図る。」とされています。
今回の診療報酬改定では、このような背景を受けて、新型コロナウイルス感染症で得た知見等をフルに活用しながら、加算要件の見直しや新しい評価の追記という形で「新興感染症」対策が盛り込まれています。
ポストコロナにおける感染症対策に係る評価の見直しの全体像が示されています。大きなポイントは4点です。
1.新興感染症発生・まん延時の対応の評価
✔︎ (診療所)外来感染対策向上加算の施設基準の見直し(発熱外来の協定締結を要件に追加)
✔︎ (病院等)感染対策向上加算の施設基準の見直し(感染対策向上加算1・2について病床確保の協定締結を要件に追加し、感染対策向上加算3について病床確保又は発熱外来の協定締結を要件に追加)
2.発熱患者等への対応の評価
✔︎ 外来感染対策向上加算の施設基準の見直し(受診歴の有無に関わらず発熱患者等を受け入れる旨を公表することを追加)
✔︎ 外来感染対策向上加算を算定する施設において適切な感染対策の上で発熱患者等に対応した場合の加算の新設
3.感染症の患者に対する入院医療の評価
✔︎ 三類~五類感染症及び指定感染症のうち空気感染、 飛沫感染、接触感染等の対策が特に必要な感染症の患者への入院医療に対する評価の新設
✔︎ 感染対策が特に必要な感染症の患者に対する個室・陰圧室管理に対する評価の拡充
✔︎ 感染対策が特に必要な感染症の患者を対象に含む急性期リハビリテーションに対する加算の新設
4.発熱患者等への対応の評価
✔︎ 感染対策向上加算について、介護保険施設等から求めがあった場合に感染対策に関する実地指導、 研修を合同で実施することが望ましい規定を追加
✔︎ 感染対策向上加算1における感染制御チームの職員について、介護保険施設等に対する助言に係る業務を含め専従とみなす旨を明確化