輸液用インラインフィルターの交換間隔に関する研究
掲載元:Journal of Hospital Infection*(IF8.9 (2022-2023))
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195670123000336
掲載日:2023/4/19
*Journal of Hospital Infection:疫学、ヘルスケア、抗菌薬耐性に関する研究論文などを公開している査読付きの医学雑誌
※こちらの文献はフリーアクセスでお読みいただくことができます。
今回は2023年4月号の JHIサマリー日本語版* に掲載された文献の中から、輸液用インラインフィルターの交換間隔に関する研究についてご紹介いたします。こちらの文献は、三重大学から発表された日本の研究報告です。
*JHIサマリー日本語版:「Journal of Hospital Infection」の最新号のOriginal Articleの抄録を和訳したwebコンテンツ
■ 輸液用インラインフィルターとは?
⇨ 末梢静脈や中心静脈から輸液を行う際に使用される輸液回路内のフィルターを指します
【 使用目的 】
- 輸液に混入した異物の除去
- (アンプルカット時のガラス片、ゴム片、繊維片、輸液交換時に発生したエアなど)
- 薬剤の配合変化による沈殿物の除去
- 輸液に混入した細菌による感染リスクの回避
輸液は、「水・電解質の補給」「栄養の補給」「血管の確保」「病態の治療」などを目的に行われる処置であり、病院やクリニックなど医療現場では頻繁に目にすることが多いかと思います。
輸液ルートについては、米国CDCのガイドラインや厚労省で推奨される交換間隔が示されていますが、インラインフィルターに特化した交換間隔に関するエビデンスはありません。
今回の論文は、7日間にわたり継続使用されたインラインフィルターについて試験を行い、その細菌除去能力と流量を評価したものになります。
■ 方法
3 種類のインラインフィルターを高カロリー輸液用エルネオパNF2号輸液に装着し、その中に表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)ATCC12228 または大腸菌(Escherichia coli) ATCC25922 を接種した。これらの実験結果を、対照輸液と比較。輸液は、流量 40 mL / 時で点滴し、7 日間にわたり 24 時間間隔で交換。点滴開始から 24 時間後にサンプルを採取。
■ 結果
高接種条件下で試験を行った 3 種類のインラインフィルターにおいて、細菌除去および流量に差があることが明らかにされた。
⇨ 細菌除去能:3つのうち、2つのインラインフィルターでは、7日目に表皮ブドウ球菌を含む液滴が観察された
⇨ 流量:3つのインラインフィルター、いずれも流量の減少が見られ、うち2つのインラインフィルターは投与開始3日目、4日目に適正な流量の維持ができなくなった
上記の結果より、インラインフィルターは連続して最長 6 日間使用できること、また 48 時間の連続使用後は流量の低下に慎重に注意すべきであることが示唆されました。
本文献に対して、JHIサマリー日本語版の監訳者は「インラインフィルターの種類によって細菌(表皮ブドウ球菌、大腸菌)除去能および流量に差を認めており、交換のタイミングを検討する上で示唆に富んだ論文である」とコメントしています。 インラインフィルターは、薬剤や輸液の用途によっては、使用してはいけない場合もあり、使用方法や使用タイミングの判断がなかなか難しいところがあります。また、インラインフィルターの種類によって、細菌除去能や流量に差があるとすると、使用するインラインフィルターの選択も重要になってくると考えられ、インラインフィルター自体も使用するべきか否か、議論がなされているところでもあります。