More Than Skin Deep〜うわべだけではなくて : 患者さんの手指衛生の改善
英国GAMA Healthcare R&D のブログより転用
2021年7月9日投稿の記事
研究/RESEARCH
イギリスの地方総合病院で行われた患者さんの手指衛生改善に関する研究において、患者用手指衛生用ワイプの導入を含む多様なストラテジーにより、患者さんの手指衛生の改善が示されました
英国皮膚科医協会の年次集会で初公開された、私共とBritish Skin FoundationおよびITN Productions Industry Newsとのコラボレーションによる “More Than Skin Deep (うわべだけではなくて)”に続き、今回は患者さんの手指衛生に関する最近の研究にフォーカスしてご紹介します。
[参考]
- British Skin Foundation:英国の慈善団体で、スキンケア研究への資金調達と意識向上を目的としている
- ITN Productions Industry News:英国有数の民間放送局ITN (Independent Television News)が提供する、ITN Productionsのニューススタイル番組であり、英国、ヨーロッパ、および米国の主要な団体や各国の協会と提携している
- The British Association of Dermatologists:英国皮膚科医学会
最近発表された研究は、イギリスの地方総合病院において、患者の手指衛生改善のための一連の対策の効果について報告しています(Wilson ら, 2021年)。
手指衛生は、医療関連感染から患者さんを保護するための最も有効な方法のひとつとして認識されていますが、一方で、医療従事者の手指衛生の役割に多くの注目が集まっています;
というのも、患者さんの手指衛生はあまり重視されていません。ベッドに寝たきりの患者さんは、しばしば手洗い設備にアクセスできず、手指衛生を行うため医療スタッフに頼ることになります。
過去の研究で、Wilkinsonら(2018)は、抗菌性の患者用ハンドワイプを60秒間適用した場合、手指から一過性に微生物を除去する効果は、少なくとも石けん/水で洗うのと同程度であり、これは手洗いに対して容認できる代替手段となりうると結論しています。
■ 研究はどこで行われましたか?
新規の研究は、イギリスの大きな地方総合病院にある高齢者ケアを専門とする6つの病棟で実施されました。
■ 介入はどのような内容でしたか?
この研究では、以下の患者用手指衛生バンドル(一括してまとめたもの)を導入しました:
・個々の患者用ハンドワイプパック
・スタッフ用の患者手指衛生プロトコール
・患者用の患者手指衛生に関するインフォメーション
・コンプライアンス(遵守)率のモニタリングおよびフィードバック
■ バンドルは誰が考案しましたか?
院内の各病棟の医療スタッフがフォーカスグループに参加し、患者の手指衛生改善の重要性ならびにストラテジーについての意見を調査しました。パックのサイズ、パッケージからのワイプ取り外しの簡便性などに関する意見を、一般の方を対象とした調査結果と合わせ、共同デザインされた患者手指衛生バンドルが生まれました。
■ 効果はどのようにして測定しましたか?
患者の手指衛生実施のベースライン評価は、午前7時から午後7時の間に3時間、6週間にわたって実施されました。評価は、食事の前、侵襲性デバイスに触れる前後、触れた後、トイレ使用後、くしゃみ/咳をした後、および嘔吐後と定義されました。患者手指衛生バンドルの効果は、12週間にわたる手指衛生実施を系統的に観察することでモニターされました。
■ そしてその結果は?
ベースラインの評価で、介入前の患者の手指衛生のコンプライアンスは13.2%( 40 / 303 ; 95% 信頼区間 9.9 – 7.5 )とわかりました。患者手指衛生バンドルの実施後には、患者さんの手指衛生コンプライアンスは有意に増加しました。526名の患者さんの手指衛生実施を観察したところ、58.9%( 310 / 526 )で手指衛生が実践されました;これは、ベースラインに対して45.7%の増加でした( 95% 信頼区間 39.7% – 51.0% ; P < 0.001 )。ワイプパックを配置するというシンプルな対応で手指衛生にアクセスできることが、手指衛生のコンプライアンス向上と相関していたことは、重要な調査結果でした。
■ 調査から得られたことは?
この調査の結果から、患者さんがタイムリーかつ適切な手指衛生を行うよう促す際に、医療スタッフは重要な役割を担っていることが示唆されました。患者さんにハンドワイプパックを提供することは、患者さんの手指衛生を向上させ、院内感染のリスクを軽減させるためのシンプルで費用効果の高いアプローチであることがわかりました。