ノロウイルス:英国における感染と予防について
英国GAMA Healthcare R&D のブログより転用
2024年10月31日
研究/RESEARCH
はじめに
ノロウイルスは英国におけるウイルス性胃腸炎の主な原因として認識されており、すべての胃腸炎の発生の50%以上を占めています1。しばしば「冬の嘔吐病原体」と呼ばれるノロウイルスは、その高い感染性と環境での耐性のために大きな課題をもたらします。
ウイルス学と感染力
ノロウイルスはカリシウイルス科に属し、エンベロープを持たない一本鎖RNAウイルスです2。非常に感染力が強く、わずか10~100個のウイルス粒子で人間に感染する可能性があります3,4 。潜伏期間は12~48時間で、症状は通常1~3日間続きます 5。
感染経路
ノロウイルスの感染は主に糞口経路で発生します6 :
・人と人との接触: 感染者との直接的な接触が感染拡大を促進します7。
・汚染された食品と水:ウイルスを含んだ食物や飲料の摂取8によって感染します。
・媒介物: 汚染された表面に触れることで、手から口への感染が起こる可能性があります9。
・エアロゾル化:嘔吐によりウイルス粒子がエアロゾル化し、それを吸入して、摂取することがあります10。
環境中での持続性
ノロウイルスは環境中で驚くほど安定しています。研究によると、表面上では最大2週間生存し、水中では数か月間生存できることがわかっています11。このウイルスは一般的な消毒剤に耐性があり、さまざまな温度と pH レベルにも耐えることができます12。
手から表面への移行と表面汚染
汚染された手は、ノロウイルスを最大7つの清潔な表面に移すことができ、汚染の連鎖を続けることになります13。このため、感染拡大を制御する上で手指衛生と環境清掃が重要な役割を果たします。
手指衛生:アルコール系手指消毒剤の限界
アルコール系手指消毒剤(ABHR)は多くの病原体に対して効果的ですが、ノロウイルス14,15のような非エンベロープウイルスに対しては効果が低くなります。エンベロープウイルスではアルコールが標的とする脂質エンベロープはノロウイルスには存在しないため、ABHRの殺ウイルス活性が低下します。
石鹸と水による手洗い重要性
英国保健安全保障庁(UKHSA)と世界保健機関(WHO)は、手からノロウイルスを除去する最も効果的な方法として、石鹸と水で徹底的に手を洗うことを推奨しています16,17。手洗い中の機械的な動作によって、ウイルス粒子が除去され、洗い流されます。
表面消毒
消毒剤の有効性
効果的な消毒には、ノロウイルスを不活性化することが証明された薬剤が必要です。消毒剤は、欧州規格EN 14476の要件を満たし、汚れた条件(有機物が存在する場合など)で現実的な接触時間18でノロウイルスに対する効果的な殺ウイルス活性を実証されている必要があります。
クリネル ユニバーサル ワイプ: EN 14476基準への適合
クリネル ユニバーサル ワイプは、ノロウイルスに対する有効性が実証されている洗剤と消毒剤を組み合わせたワイプです。これらは、EN 14476の要件を満たし19、汚染状況下でも接触時間60 秒で洗浄・消毒を行います。これにより、医療現場と地域社会での表面の除染に実用的な選択肢となります。
予防策
手指衛生の実践
・ 特にトイレの使用後や食事や調理の前などには、石鹸と水で少なくとも20秒間頻繁に手を洗ってください16。
・ 特にノロウイルスの発生時には、ABHRだけに頼らないようにしてください。
環境清掃
・ノロウイルスに有効な消毒剤を使用し、それらがEN 14476規格18 を満たしていることを確認してください。
・ ドアノブ、蛇口、トイレの水洗レバーなど、よく触れる表面には特に注意してください20。
隔離と接触回避
・症状が治まってから48時間までは、症状のある人は仕事、学校、社交の集まりに参加しないでください21。
・医療現場では、院内感染を防ぐために感染患者を隔離してください22。
食品安全対策
・食品の取り扱いと調理においては厳格な衛生プロトコルを実施してください8。
・ ウイルスを不活性化するために、貝類などリスクの高い食品は十分に加熱してください。
結論
ノロウイルスは、感染力が高く、環境に対して頑強なため、依然として公衆衛生の大きな課題となっています。ノロウイルスに対するABHRの限界を強調しつつ、石鹸と水による手洗いと、EN 14476 基準を満たす有効な消毒剤の使用を促進することが不可欠です。徹底した衛生習慣と適切な環境清掃により、ノロウイルスの拡散を大幅に軽減できます。
Karen Wares
クリニカル&サイエンスダイレクター、GAMA Healthcare
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